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認定支援機関

JSAでは、平成25年4月から「金融円滑化法終了対応の出口戦略」緊急特別セミナーを6回開催しました。大変好評を得たため、講師の皆様の執筆で日本評論社から”認定支援機関必携の書”「中小企業事業再生の実務」が平成25年12月に出版されました。

[本書の特徴] 中小企業経営力強化支援法によって設立された中小企業再生を支援する認定支援機関に必要な金融機関との対応、私的・法的手続きの実務を明快に解説。認定支援機関必読の書。

著者:中小企業診断士濱田法男、弁護士権田修一、税理士天野清一。

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日本評論社出版「中小企業事業再生の実務」の私的整理のコラムをご紹介します。

コラム1.私的整理を整形外科に例えたなら

法的整理と私的整理の違いとして、それをわかりやすく説明すれば、私的整理は皆に知られずに病気を治す方法といえよう。ちなみに病気を治す方法として手術から予防注射の類までそれぞれである。そのようななかで、私的整理を法的整理と比べれば、クスリを飲んだりリハビリしたりと軽いケースの医療対処に近いのがその特徴である。例えば整形外科の場合、外科的手術が必要なのは緊急性が高い症状、企業でいえば目先の資金繰りに窮しており今にでも資金ショートする状態であり、そこを対処するのが法的整理である。

一方外科的手術に相対するのが保存療法という分野であり、理学療法と薬物による療法に分かれている。理学療法とは整形外科であれば装具療法・牽引療法・温熱療法、・レーザー療法があり、さらには運動療法まである。薬物療法も多く、消炎鎮痛剤・ビタミン剤・筋弛緩剤・抗うつてんかん薬・漢方薬・神経ブロック療法まである。例えば首や腰の痛みであれば80%~90%は保存療法で改善されるといわれている。すなわち私的整理である。これと同様、企業再生の80%~90%は私的整理で対応できるのはないだろうか。

ところで治療のポイントは以下である。どこが患部なのか、症状は重いのか軽いのか、自然治癒なのか、薬で治すのか、手術なのか、入院は必要なのか否か等々。これを私的整理でまずは見極めなければならないということである。また、実は治療前のポイントが重要である。すなわち病院や医師の選び方である。近くなのか、上手な(評判の良い)医師なのか、高額すぎる治療にならないのか等々である。良いドクターの選び方とは以下である。(一般的なガイド本や書籍に乗っている事項)

【技術】

・的確な療法を施してくれる

・治療方法や内容、費用等に付いて丁寧に説明してくれる

・治療後のフォローをしっかりとしてくれる

・治療だけでなく再発予防にも時間をかけてくれる

【人間性】

・患者の話をよく聞いてくれる

・病名をはっきりと教えてくれる/p>

・気軽にセカンドオピニオンを教えてくれる

認定支援機関のコンサルタントは、再生すべき企業のドクターである。まさのこのあたりに気を付けなければならないとうことである。但し、ここでポイントになるのは金融機関との関係である。金融機関の存在をどう解釈するかといえば、見た目は患者に寄りすがる家族、しかも患者の親というところであろうか。しかしもう少し深く解釈すると別の存在になってくる。本当に助けてくれる神なのか、それとも死神となるのか、そこが問題である。そのような存在の金融機関と円滑に話を進めることこそ、認定支援機関の役割といえよう。

コラム2.DDSとは

DDSとはDebt Debt Swap の略称といわれている。和訳では資本制借入金とも呼ばれている。一般的には借入を資本と見做すスキームである。本書に目を通す読者の方であるならば、すでにこのスキームには精通されている方も多いと思われる。またこれに対する専門的な説明は専門書やネット、そして認定支援機関での諸々の研修で詳細なる説明があったので本書ではその単純なスキーム説明は省くこととした。

かような説明は省くこととして、では現実的にその利用頻度はどうなのであろうか。特筆すべきは諸ルールやその立ち位置が最近大きく変わってきたこと、加えて金融機関内部の意見がまだまだ固まってない(※)という現況にある。したがって慎重な取り扱いをすべきといえよう。

但しDDSを進めるにあたっても、その金融機関と擦りあわすべき諸項目、特にメインバンクとしての支援意思確認のための留意事項は本書でカバーさせているつもりである。DDSを活用する際にも本書を活用してほしい。

(※)
金融庁は、2011(平成23)年にルールを明確化、翌2012(平成24)年には全金融機関にアンケート調査を行うことや、各金融機関への個別指導を通し、積極的な活用を促している。その効果もあり、徐々に件数は増えてきているが、普遍化された一般の金融スキームとは言い難い。

ちなみに筆者の個人的な意見としては、このスキームが比較的長い期間を要するということを勘案、悪戯に金融スキームに焦点を当てるのではなく、事業面の計画検証に最も注力すべきと考えている。認定支援機関の方々には積極的に利用していただきたいが、当該企業の事業や業界に精通した中小企業診断士等と連携して計画策定すべきと考えている。

コラム3.認定支援機関が担うべきゾーンとは

認定支援機関が担うべきゾーンとは

図表 金融機関による債務者区分とそれによる私的再生アプローチ分類

各債務者区分先に対して、業績トレンド(区分上下見込み)をベースに以下で分類する。

(PDF資料 )格付け別アプローチ

私的整理に伴う認定支援機関としての動き方(図表:格付け別アプローチ参照)を説明する。私的整理区分としての着眼点は前述の通りであるが、それを金融機関による債務者区分とクロスさせてマトリックスを作成してみた。再生支援計画策定のためのコンサル進め方として、経営者の強い思い(悲痛)があるのは破綻懸念先や実質破綻先かもしれないが、そこは金融機関の同意が得られる見込みは少なく、また事業性を失った市場から退出すべき企業であるならば、その再生計画たるや実現性の乏しいものになるおそれがある。一方、要注意先のゾーンで比較的毀損度合が低い企業であれば計画策定の実現性が増す上に、金融機関の同意も得やれやすい。それがコンサルタントとしてはやりやすいといって批判されることはない。再生計画を順次策定していき、1社でも多くの企業を立て直している。但しリスケを利用していなければ認定支援機関としての報酬補助は得られない。これらを一覧にマトリクスにしてみた。諸々のご批判はあると思うが、わかりやすくポイントを配し、○で囲んだゾーンをコンサルタントの方々に注目していただければと思う。あくまでも筆者の個人的な感性で判断しているということを念頭に置きつつ、各コンサルタントの皆様の業務(マーケティング)の一助になれば幸いである。

コラム4.担保保存義務とは

保証協会との関係は重要であるが、時として保証協会以外の第三者が金融機関の保証を行っていることがある。関東では新銀行東京の保証が有名である。以前は損保会社が金融機関の中小企業宛与信を保障していた時代もあった。これらの関係者も保証協会と同様に留意しなければならない。

それは何故なのか。担保保存主義という民法上の規定があるからである。金融機関の取引約定所に関しては以前と違い一般的な雛形が制定されておらず当該金融機関によって違いがあるものの、この担保保存義務は共通項目として留意すべき事項である。金融業界の用語辞典によると担保保存義務とは以下である。

債権者は保証人など法定代位権者に対して、法定代位権者の代位権を保護する立場から、人的担保・物的担保の何れを問わず担保を故意または過失により、その価値を減失・毀損しないよう保存する義務を負うものとされている。

担保保存義務により金融機関は保証協会に債務者の現況を詳細に伝えなければならないが、では政府系の保証協会以外であればそれが免除されるかというとそうではない。従って保証協会以外の保証人有無を留意しなければならないということである。

なお、これに関しては法人を含む連帯保証に関しても同様である。経営者以外の個人保証は制限する方向性にあるが、時として経営者以外の第三者が連帯保証人になっている場合がある。このようなケースに限って再生計画策定時に、当該保証がネックになる場合がある。一方、保証人になっている企業や個人の税務問題に繋がることもある。保証協会以外の保証人に留意するとともに、第三者の保証が入っている場合は税理士等と連携し、そのタックスプランを練ることも必要である。

コラム5.哀れメインバンク不在

債権者企業にとって最も怖いのは、借入金額で一番大きいメインバンクと目される金融機関から「私は実質的にはメインではありませんよ」と突きつけられる事態である。このような場合はバンクミーティングを開催することができない。メインバンク不在の企業は上場企業であれ中小企業であれ、過去から悲しい結末が多かった。ではどうしてそのような状況になるのであろうか。

例えば過去に粉飾決算等があったとか、社会的な制裁を受けるような出来事があったという酷いケースから、経営者も金融機関も人の子でありウマが合う合わない程度のこともある。この点は、どこに問題があるのかを見極める必要がある。私的再生を進めるに当たり、メイン金融機関はどこなのか、そこと問題が生じているとすれば、それはどういう事由があるのか、ということを冷静に判断する必要がある。

一方、金融機関としても自らの大事な取引先を「路頭に迷わせたくない」と考えているのが常である。金融機関から見ると、これが最も悲しい事態である。社長は経営者として自分の企業を良くするということに対して無頓着になっていないか、金融機関が言ってきたことくらいは無視してもよいと思っていないか、金融機関が何とかしてくれるということで片付けていないか。

もしそのような態度の企業であれば、金融機関担当者の心を離反させてしまう。心ある金融機関担当者なら自らの融資先を潰そうとは思っていない。しっかりと金融機関の意見を聞かねば大変なことになる。一番大事なことは、金融機関が見切る前に経営者が自らの病状に気づくことである。この点も、私的再生を担うコンサルタントとしてはしっかりと債務者企業にアドバイスすべきことである。

最後に1点、蛇足であるが最も大変な事態を説明しておく。金融機関は組織である。本部、例えば審査セクションが機関決定として「この企業の存在価値はない」と決断を下した際、それが最も懸念すべき事態である。

金融機関は一般的な企業と違い、意思決定に関しては完全なピラミッド型組織である。いったん決定されたことを覆す部下はいない。そのような決断が一旦なされた後の方針転換はなかなか難しい。正確な情報を金融機関に提供しない、情報量を絞ってしまう等々の結果、不幸にして企業サイドにとってはマイナスの機関決定がなされたのなら、それを修正することは実はかなり難しい。私的再生は断念すべき事態と言っても過言ではない。

コラム6.金融機関担当者との付き合い方とは 

債務者企業として金融機関宛説明責任を果たすための付き合い方がある。まずはとにかく、金融機関との接点を増やすべきである。そして意思疎通を図ることである。窮境状態に陥った企業としては、金融機関に訪問して担当者に事情を説明することが肝要である。当然のことだが、担当者だけではなく、その上司や副支店長、支店長にも面談を求めることだ。

ここでのポイントは2つ。①臆することなくアポイントを取るということだ。業績が厳しくなった経営者によくある傾向として、担当者とは話しやすいがその上司には面談を求めない方が多い。また突然訪問するのではなく、しっかりと話す時間を金融機関サイドに確保させるべきである。②2つ目のポイントとして、その支店の支店長が社長の会社の命運を決める人なのか、それともその支店ではなく本部の審査セクションが命運を握っているのかをはっきり認識することである(ここでは支店長と表記したが、金融機関によっては支社長とか法人部長とか表記が異なるので注意が必要である)。どこのセクションの誰が“当社の命運を握っているのか”を把握することにより、話し方を変えるべきである。

一番まずいケースとしては、本当は支店長が権限を持っているのに、その支店長が「本部がウンと言わないのですよ」と逃げているケースである。但し本当に本部が命運を握り、支店長としては何とか社長の会社を助けたいと考えているのであれば、金融機関が満足する資料を提供し続けるしかない。その支店長に文句を言っては駄目である。なお、業績が厳しくなると、大多数のケースで本部決済となっている。その点は否めない事実である。

さらに重要なこととしては口頭で説明するだけではなく、業績を示す説明資料を作らねばならない。実は金融円滑化法がスタートした際、「業績計画がない企業(業績計画を立てる能力がない企業のケースも含む)に関しては、金融機関担当者が計画を策定しなさい」という金融庁からの指導があった。これに対して当時の金融機関職員は全員が卒倒した。「それはできないであろう……」と卒倒したのだ。だが結果としては金融機関が作成した計画が多々ある。本書を読んでいただいているプロのコンサルタントならお察しできると思われるが、当該企業の財務内容には精通していても、それだけで事業計画が描けるほど真の計画策定は甘くない。

但しそれでも策定したのは事実であり、そのような債務者企業への必要以上の配慮があった。結果として、円滑化法を利用していた企業は自ら計画策定したことのない企業が多く見受けられるという残念な事態となった。債務者企業の考える能力を奪った当時の対応は、改めなければならない。約定通りの返済が果たせないのであれば、「それは何故なのか、いつなら返せるのか」等々明確にし、それを説明する書面を作成しなければならない。この点を債務者には再認識させるべきである。加えて金融機関は組織で機関決定している。テレビドラマや映画の如く個人で自由にできる組織ではない。

すなわち債務者企業は、金融機関の担当者が組織のなかで当該企業の実情を円滑に伝えられるよう配慮しなければならない。組織の歯車が回るように“油”を注入しなければならないと考えるべきである。その“油”が再生計画書である。また「あの銀行は駄目だ」と批判する経営者は多いが、それはその金融機関に対する自ら(経営者)の動き方がまずいケースが往々にしてある。担当者とのやり方一つを取って、その銀行全体を語るというのは違和感がある。特に担当者という存在は、その金融機関のなかでは債務者企業の、すなわち経営者の言葉を代弁すべき人材なのである。

仮に企業と金融機関の間が良好な関係ではないとしたら、それはコンサルタントが是正すべきである。担当者を味方にすべきなのである。そのためには、担当者が組織のなかで戦えることができるよう、武器(計画書や情報等)を与えてあげることが肝要である。